「パーティ?」 リンの大声に耳をふさぎながら小松はうなずいた。 「コッコココココ、ココと一緒にぃ!?」 ニワトリのように叫ぶリンに小松はぱちぱちと目をしばたたかせた。なにをそんなに驚くことがあるのか分からない。 先日の4人で勉強会の件のことと、そのあとココに乞われてちょっと儀式的な集まりについてきて欲しいと頼まれたことを報告しただけだ。 サニーとリンもIGOの関係会社の社長の子供だから、小松ほどではないがココのことを知っている。ココもふたりのことを知っていたし、たぶん一般人にはわからない繋がりのようなものがお金持ちの世界にはあるのだろう。 (けど、あれは――もう味わえない気分のよさかも) きちんとした場だから、小松くんには申し訳ないけれどといいながらココの顔は嬉しそうで、なにか役にたてることがあるのだと思える自分も誇らしかった。 そのために必要な衣装を揃えたのだが、小松の話がその段に差しかかってリンが突然立ち上がったのだ。 「しかも、小松の衣装を揃えに百貨店に行ったとかありえないし。えええええ、これはお兄ちゃんに報告するべき物件なんだし」 がくがくと震えるリンが、右足と左足を同時に反対方向に出すという、あり得ない動きをいっぺんにしようとして顔から床にべっとりと倒れ込んだ。スカートのポケットから引っ張り出した携帯を天井に向かって差しあげている。 「そんなに大騒ぎすることでもないですよ。ただココさんと一緒にその場にいるだけでいいんだし、おいしい料理もいっぱい出るんですって」 お願いしたいんだ、と普段から想像もできないココの姿を思い出して小松はちょっとほほ笑んだ。 あの、優しくて冷静で物静かなココが小松に頭を下げたのだ。とんでもなくとっぴなお願いでもない限り、小松にYES以外の選択肢はない。 そもそもあれは夢に違いない、という思いが強かっただけに、すこし前のココにまつわる怖い記憶なんかいっぺんに小松の頭から消えてしまったのは笑える話だ。 「でも小松ぅ」 「まあ、服とか靴とかアクセサリーとかボクを着飾らせても、何の得になるかわかったもんじゃありませんけど。必要経費としてIGOで落ちるって言ってたからココさんのお財布は痛んでないって言ってましたしね」 「……」 起き上がりもせず、床に寝そべってなんとなく形容しがたい顔で小松を見るリンがなんだかちいさい子どものように見えて、慌てて駆け寄って背中を支えて抱き起してやる。リンはたまにこういう顔をするのだ。 「ココさんも結構ノリノリでボクも楽しんじゃったし。本番までの練習みたいな感じで、ちょっと腕を組んだりして――ああ、でもハイヒールはやっぱり無理だったんでヒールは低めのを選んでもらったから、その辺は心配しなくても大丈夫。あのココさん見て欲しかったなあ、なんだか本当にボクが選ばれたパートナーになった気がして照れたけど、あんな顔されたら本気になっちゃいそう」 恋バナが好きなリンのために話をすこしだけ面白く伝えて見る。するとやっぱりぱっと顔色が変わって小松の手をしっかり握ってきた。 「なんか小松からオンナのにおいがするし」 「ええっ、やっぱりそれってココさんのおかげ?」 小松とリンは顔を見合わせてぷっと吹き出した。まだ恋というものを本当の意味では知らない二人にとって、オンナというものがどういうものか具体的には分からない。 「もういっそホントにしちゃいなよ。ウチは小松のこと応援するし」 「さすがにそれはココさんに悪いからやめておきます――でも、夢くらい見てもいいよね?」 最後に選んだドレスを着た小松を見て、ココの顔が見たことないくらい赤くなったこととか、疲れさせてごめんねといったあとに抱きしめて来た腕が意外なほど熱かったのは言わずにおいた。なんだか、口に出すと壊れてしまう夢のようだったので。 ウチもトリコと行きたーいと笑いながらリンが小松に覆いかぶさってきて、二人はごろごろと床に転がった。 しばらくそのままの体勢でくっつき合っていたけれど、くすくす笑いが響く静かな部屋をいぶかしんだのか、ふっと顔をのぞかせたサニーがなにしてんだ前らパンツ見えてっぞ、と言って小松とリンを大いに慌てさせた。 |