「パーティ、とか想像つかない」
静かな更衣室の中で、場違いな衣装を身につけながら小松は思わずつぶやいた。これで何枚目の衣装替えか分からないが、とりあえずココの目にかなう格好をしなければ出ることもかなわない。
(そろそろトイレ行きたくなってきたんだけど)
そわそわしながら薄い布をはおって鏡を見た。痩せっぽっちの体に、薄い胸。およそ女性らしくない自分の姿は見慣れている。
いつもと違うのは、自分を包んでいるのが洗いざらしのシャツやデニムではなくて、なんだかよくわからない素材でできたふわふわと薄いワンピースだということだ。
更衣室のカーテンを容赦なく開けると、そこにはココがいままで小松が試着したドレスを検分する背中がある。
「終わったかな。おつかれさま――ちょっとこっち向いて、靴を履いて出てきて」
ココの言うとおりに華奢なサンダルをつっかけて、頼りなく震える足をつっぱって更衣室を出た。スニーカーしか履いたことのない脚先は、わずかなヒールで動揺するので、どうしても近くにあるココの腕にすがりつくことになる。
「うん、いいね――色とか……いままでのよりいちばんいいかもしれないね」
どこか上機嫌なようすで、ココは小松の姿を部屋におかれた大きな鏡の前に運んでいく。
しなやかでたくましいココに頼りなくもたれかかっている小松は、その服の色も相まって大木につかまる若い鳥のようにも見える。
ピンクとオレンジの間の暖かい色をした薄い布が首のところから何枚も重なって腰のあたりでいちど絞られているが、たっぷりとゆとりをとって裁断されているので苦しくない。
ふわふわした短めのスカートからのぞく小松の足もうまくカバーされて、それだけ見れば華奢な女の子のように見える。袖がないので腕が出るのを気にしていると、ココが薄い布を肩から巻いてくれた。
「服はこれにしようかな。あとは靴とアクセサリーと……下着なんだけど」
最後は言いにくそうにココは小松の顔を見た。
「これ、買ったばっかりなんで悪くないと思うんですけど!サニーさんに教えてもらった店なんで、物は悪くないし、気に入ってるし」
靴とアクセサリーはともかく、下着をココと一緒に選ぶなど考えもつかなかったので小松は必死に言いつのった。
「サニーねえ、そっか……」
(あ、失敗した)
すっとココの顔から笑顔が消え、冷たい光が目に浮かんだのが分かった。焦りながら、次の言葉をどうしようか考えあぐねている小松にココは気を取り直したようにほほ笑んで言った。
「でも、特別なデザインだから下に着るものもちゃんとしないといけないね。さすがにそれは見ることはできないから、専門の人にお願いしよう。あとで、サイズだけ教えてくれたらいいよ」
小松はほっと息をついた。
「アクセサリーはまあいいとして、靴だけは一緒に選ぼう。もう少しだから、元気出してね」
優しく頭を撫でられて、小松はココを見上げてうなずいた。
夜のような目が小松を映してくるめいている。疲れと空腹で頼りなくなった頭の中、それでもなんとなく幸せな気分になって小松はうっとりほほ笑んだ。



走り出したにょこま妄想