「というわけで、これが小松です。――こっちがウチのお兄ちゃん。顔を見るのははじめてだったっけ?まま、楽にするんだし」
「は、はじめまして、小松と申します」
向かい合ったテーブルの向こう、髪の毛を塔のように高く結いあげた男が不機嫌そうにうなずいた。
「――ン」
「ちょっと、お兄ちゃん。ウチの友達にそんな態度ないっていうか!昨日ちゃんとお願いしてたじゃん」
リンがいきり立って詰め寄っている。小松はハラハラしながらその様子を見守った。来るまでにふたりが二卵性双生児だということを聞かされていても、やはりあまり似ていない兄妹である。
どちらかというと目が大きくかわいらしい顔をしているリンに対して、兄である彼はきりっとした切れ長の目が特徴的な美人タイプである。そんなにあって邪魔にはならないのだろうか、というほど長いまつげに縁取られた瞳だけは、リンによく似た深い色をしていた。
その青い目が探るようにじっとこちらを見ている。
「あ、あの――とても良いお店を紹介していただいて、ありがとうございます」
小松は頭を下げた。なにか話していなければ落ち着かない。
「ン――前、あの店行ったの?イイ趣味してんな」
「とても素敵なお店でした。料理だけじゃなくて内装も、雰囲気も――ボク、あんなお店に気軽に行けるようなものじゃないんで、すごく緊張してしまいましたけど」
男は尊大に足を組んで、薄く笑っている。
「そういえば、リンちゃんに教えてもらったんですけど……あの下着のお店もとてもかわいくて店員さんも優しかったので」
小松がそういうと、キラッと目を輝かせた男が身を乗り出してきた。反射的に椅子の背ぎりぎりまでのけぞってしまう小松である。
(リンちゃん――)
心の友は、お茶入れてくるしーとのんきに席を立ったばかりだ。
「前――」
男は小松の反応にはあまり頓着していないようだ。顔を近づけて、頭の先から足の先までをじろじろと眺めまわされている。あまり気分のいいものではない。
(こんな時にひとりにしないでくださいよぅ!)
胸の中で泣きごとをつぶやく小松である。そもそもこの話を持ちかけたのが自分であるから、必死で耐える。うまくいけば、課題のこともトリコのことも考えなくてすむ。
心の傷を埋めるには時間が必要なのだ。
「手入れがそんなになってない割に、色つやはイーな――髪もざんばらにしてるが、前に調和してるし……ン、インじゃね?」
そっと男の指が伸びてきて、小松の短い髪の毛に触った。
「前に、ノつもりがあるなら、レが美容についてアドバイスしてやってもいい。それができるまで髪も伸ばさなくてもイーからな」
「……」
言葉が出てこずに、うなずくだけで精いっぱいな小松は彼の独特の発音に注意までは廻らない。なんとなくそういう意味なのかな?という程度だ。
「で、前は――名前なんてーの」
聞いてなかったのかよ!という突っ込みは胸にしまう。唇を舐めて小松は口を開いた。
「小松と申します。よろしくお願いします」
ざっと頭を下げて、男の反応を待った。
「松、か普通の、前に調和した名前だな――レのことはサニーって呼んでいいぞ」
なにかいろいろ抜けている気がするが、細かいことにかまっている場合じゃない。これからの快適な学園生活を守るために、小松はさらに深く頭を下げた。



走り出したにょこま妄想