ホールに飛びだすと、意外なほどスカートは気にならない。 慣れない手つきで注文を取って、間違えないようにテーブルに置くだけの作業が、こんなにも大変だったなんて。 ようやく落ち着きを見せてきた店内のようすをうかがいながら、見えないところに引っ込んで小松は息をついた。 どうやらリンと一緒に入った時間がティータイムに当たったらしく、先ほどまでひっきりなしに飲み物や軽食、ケーキセットの見本などを抱えて走りまわっていたのだ。 長時間動き回っているので足が痛くなってくる。ちょっと足首を動かしながら、会計に立つ人がいないか、注文のために手をあげている人がいないかを確認しつつ、ひと息入れているのはリンも同じだった。 ぺらぺらしゃべりまわるのは良くないと注意されていたので、目くばせだけでようすをうかがうと、なんだか楽しげにぱちぱちとウインクを返された。 (――なんだろ?) 「いらっしゃいませ」 ホールに係の声が響いて、小松は銀色のお盆を手に取った。 入口を見ると、なんだか見たことのあるような人影がじっとこちらを見ている気がする。 (いや、でも化粧してるし――ばれないと思う) 仕事に入る前に、無理やりファンデーションとリップグロスを塗りつけられた小松の顔は、学校にいるときよりもほんのわずか大人びて見える。 手早く動くリンの手際に感心しながら、最後にほお紅と暖かい色のグロスを乗せられた時はなんだか神妙な気持ちになった。 時間があればつけまつげもつけたかったというリンを横目に、なんだか普段と違う自分の顔にちょっと驚いた小松である。 「いらっしゃい、ま――せ」 自分を励ましながらお冷の入ったグラスをお盆に載せて近づく客の姿を見たときに、小松の心臓は高鳴った。 (トリコさんと――ココさん?) はっと、振り返ってリンを見ると小さく手を振っている。そういえば店に来る間になんだか携帯をいじっていたような気がした。 テーブルについた二人をこわごわ見下ろして、小松はグラスをそれぞれの前においた。メニューを手渡すと、トリコが驚いたような顔でこちらをじっと見ている。あまりにもおかしな顔だったので、吹きだしそうになるのをこらえてもう一枚をココに渡そうと手を伸ばした。 (うっわ、なんかココさん怖い) いつも穏やかにほほ笑んでいる顔をしか知らない。けれど、いまココの顔は見るものすべてを凍りつかせるくらいにきつく、きれいな顔をしている分、いっそう自分は怒っているんだぞということを如実に伝えていた。 (兄弟げんかでもしたのかな) こちらを見ようともせず、メニューだけを抜き取られて小松は心底震え上がった。いままでココがそんな態度を取ったところを見たことがないのだ。 それでもこわごわ、お決まりになりましたらお呼びくださいとマニュアル通りの言葉をつぶやいて一礼すると、他の仕事に急ぐふりをしてテーブルを離れた。 |