きれいな装飾の紙袋を大切に抱えて小松は家路を急ぐ。

とうとう手に入れたのだ。あの、例のアレを!

そこに至るまでは恥ずかしいこともあったけれど、それを上回る喜びが小松の胸を満たしている。
ココの前で泣きだしてしまってからしばらくたった。ぼろぼろと泣き崩れる小松を前に大慌てしたココはあれやこれやと騒いだ挙句、毛布でくるみこんで抱えあげると靴もはかずに外に出て家まで送り届けてくれたのだ。
トリコからそれを聞いて、申し訳ないのと面白いので小松の胸はずいぶん楽になった。あの、なにごとにも動じないココの顔が焦ったり慌てたりするのを間近でみたのも原因かもしれない。
そうこうするうちに、両親を通じて材料費が送られて来ては拒否することももうできず、相談の上(どうやら両親の給与にもなにか手心が加えられたらしいというのは雰囲気で分かった)半分は貯金して、もう半分はこれからかかる弁当の材料費と余った分は小松の好きにすればいいという話でまとまった。

それでも手元に残った額は相当なもので、なにに使うか悩んだ挙句、新しい調理器具を買おうとした小松を止めたのはリンだった。
「女なら、アレを買うべきだし!」
そのまま手を引かれて向かった先は、いつかのランジェリーショップ。
いつぞやはどうも、店員が頭を下げたあと大人の顔で頭をなでられて、小松は真っ赤になった。
どうやらリンの兄は自分が選んだわけではなくて――冷静に考えれば、妹の下着を選ぶ兄というのはとてもシュールだ――はずれのない店を教えただけであったようで、知らないうちにリンはすっかりお得意様である。
ゼロの数に恐れを感じ、試着したままで終わった例のアレを手にとって、小松はまた感動に胸を打ち震わせた。
やわらかで、軽く、つるつるとした質感はいつまで触っていても飽きない。店員のアドバイスと懐具合とを相談して、何着かの洗い替えを用意してもらうと手元のお金は小銭ばかりになった。
(けど、やっぱり――)
足に羽根が生えたように、ふわふわとどこか浮き立つ気持ちは変わらない。家に帰りついて部屋にこもって、カーテンを閉めると始まるのはひとりのファッションショーである。
とっかえひっかえ(胸を寄せて上げるテクニックは店員から伝授してもらった)下着をためし、狭い部屋の中をモデルよろしくうろうろとする姿はとうてい親にも見せられない。
顔にさえ注意しなければ、細身の体にわりと大きめの(と、自分では思っている)胸とまだ薄い腰を包む淡雪のようなレースがラインをとてもきれいに見せる。その上から普段通りの服を着ると、少しだけスタイルがよくなった気もする。
制服のブラウスの下に、こんなきれいなものを隠しておける自分はなんて幸せなのだろうと小松は胸の上でこぶしを握り締めた。
美しくなることは早々にあきらめている。髪もベリーショートに切り込んで、女っ気がないように気をつけて来た。
それでもやはり、心には嘘をついて生きていくことはできない。
仲良くなった店員からもらった、試供品の香水のボトルのふたを開けて、その香りをいっぱいに吸い込んだ。
(ああ、これ――ココさんのにおいに似てる)
粟立つほどの快感をその身に感じながら、小松はベッドの上につっぷして長いため息をついた。



走り出したにょこま妄想