「トリコさん、どうでした?」
部屋に戻ってきたココさんに声をかけると、盛大なため息が返って来た。
「完全に寝入ってるよ。全くあいつは、この家をホテルか何かと勘違いしているんじゃないかな」
呆れたようにココさんはつぶやいた。
「いつも連絡なしで来ては食糧庫を漁って、満足したら寝て……」
何か思うところがあるのだろう。ココさんの顔色が変わったのを僕は見逃さなかった。これは危険な兆候だ。
「コ、ココさん!お茶でも淹れましょうか?――って自分ちじゃないのに言っちゃってますけど」
くるり、と振り返ったココさんの冷たいまなざしが、コンビを救わなくてはという僕の浅はかな思惑をレーザー光線のように貫いた。僕は息をのんで、目の前にある美しい顔に向かって懸命にほほ笑みかけた。
「まったく、君って人はね!――小松君」
肩を落として、ココさんは二度目の盛大なため息をついた。
怒っているわけではないのだ。そう長い付き合いでもないが、ココさんのことを何となく理解しつつある今はそう思う。
未来を予見する力を持っているのだから、僕たちの不意の来訪を避けたければ幾らでもやりようはあるし、実際に留守だったことも何度かあった。
今日もハントの帰りにトリコさんが突然ちょっと腹が減ったからと言いだして、止めようもなくついてきたのだけれど。
最初からすべて分かっていたみたいに、ココさんは僕たちを迎え入れてくれたし、簡単な食事の準備までしてあったからだ。
挨拶もそこそこにトリコさんは用意されていた分を全部かき込んで、しばらくするとうとうとし始めたと思ったらすっかり夢の国の住人で、見かねたココさんが寝室へ運んでくれたのだ。
しんと静かになった部屋で、僕はさすがにちょっとばつの悪い気持ちになった。こうなるのは分かっていたけれど――おなかのすいたトリコさんをとめるのは容易ではないし――ココさんがいないことにかけてみようと思った自分を見透かされている気がしたからだ。
(怒ってないにしろ、やっぱり申し訳なかったかな)

「ぼく、お湯を沸かして来ますね」
手早く茶器の用意をして、ココさんが黙っているのをいいことにキッチンへと素早く入り込んだ。お邪魔しているうちに、ある程度の調理器具や食材のありかは把握している。触れてはいけないという薬品は幸運にも僕の手の届かない棚に置いてあるので、よほどのことがなければうっかりも起こらない。
オーブンの準備をして、材料を放り込んだボウルと格闘する間にお湯を沸かす。
リラックス効果のあるハーブやドライフルーツを使って、僕好みにブレンドした茶葉の上に沸いたお湯を注ぐと部屋中に馥郁とした香りがたった。
そうこうしているあいだにオーブンが温まってくるので、材料をまとめて流し入れて準備完了。
「――小松君」
使った道具を洗い元あった場所に戻して、ふっと息をつくタイミングを見計らったように、ココさんがキッチンへ入って来た。
「勝手に使っちゃって、すいません」
軽く頭を下げると、ココさんは小さく笑った。
「いいんだ。気を使わせちゃってごめん。君たちが来ることは分かってたんだから、もっと用意しておけばよかったよ。トリコがあんなに食べるとは思わなかったからさ――いいにおいがするね」
「はい、ちょっとハーブとか使わせていただきました。あとでちゃんと補充しておきますから心配しないでくださいね」
「そんなこと、小松君がすることないよ」
ようやくやわらかくなったココさんの雰囲気に、僕は安心してお茶の入ったポットを差し出した。
「向こうの部屋で飲みませんか?センチュリースープ……とまではいきませんが、小松スペシャルです。しばらくしたら、オーブンの中身も焼きあがると思いますし、せっかくのお天気だから」
「……ありがとう」
ココさんの目がやさしく瞬いた。それだけでずるいくらいにかっこよく見える。そのまなざしが自分を向いていることが照れ臭くて、僕は思わずポットで顔を隠した。














本当の意味で最初に描いたココマ?情熱のままに突っ走りました。楽しい。