知恵をつけた人類がはじめてしたことは、裸だった自分をいとい、近くに生えていたいちぢくの葉で股間や胸を衆目から隠したというのを何かの本で読んだ。 もちろん、それが何かのたとえだというのは分かっていたし、とりたててその部分を思い出すことはなかった。書かれていた書物というのも教養のために読んでいたはずだから、ちゃんとした学術書だったと思う。 下着と言うのは本当に不思議なものだ。 ふだんは人目に触れないように、服の下に隠されている大切な部分。 僕自身はいたって普通の(サイズだけは体つきのこともあるので特別なのだが)デザインで、数多く市場に流通する一般的なものを好んではいている。 そのあたりは女性などの方がすいぶん先んじていて、やたら凝っていたり貴重な布を使ったりするのか、それに見合った値段のものがまるで宝石みたいに店先にディスプレイされたりしているのは知っていた。 「ココさん?」 そしてボクはいま、とんでもないものを見下ろしている。 ボクと小松くんは恋人同士で、さまざまな夜を過ごしていた。 彼の初めては僕で、またボクのはじめても彼だ。こういうとあらぬ誤解を与えてしまうかもしれないが、彼がボクを抱くというのはまずない。体格差があるし、なによりボクがまだ彼に抱かれてもいいなんて思うほど、この行為に慣れちゃいないのだ。 ベッドの上、押し倒した格好でパンツ一枚の小松くんが体をすくませている。彼の足の間にボクはいて、ふたりを分かつものは綿の下着だけだ。 白い綿のごく普通の男性用のパンツの前面には、小松くんの趣味か、昔の漫画に出てくるみたいな骨付き肉がでかでかとプリントされている。まるで小学生がねだって買ってもらうような、いわゆるキャラものの亜種だろう。 誓って言う。ボクには下着だけを愛する趣味はない。 けれどなんというか、体の小さな小松くんがこういうのを履いていたら背徳感が尋常じゃない。 (ヤベ、超合法) やわらかなももの感触を楽しみながら、ボクは黙ってその光景を見下ろした。 室内で働く小松くんは、あまり日に焼けない。白い2本の足の間の荒々しいものを人の目からかくす聖布は、その本質を表すみたいな肉そのものの絵でボクを焦らせた。 まさか、そういう深い意味を持たせてはいているわけじゃないだろうが、なんだか今日の僕はそれが気になってたまらなかった。 足の付け根に食い込んでいるゴムの部分から指を差し入れると、小松くんの体がくねくねと動く。そっと伸ばしてあとになっているところを丹念に撫でた。 「ココさ……ん」 小松くんのかすれた声がボクの本能を打ち抜いてくる。どうして君は、ただ、ボクの名前を呼ぶだけで男のいやらしい部分を煽ることができるんだろうね。 「あっ」 まだなにもしていないのに、ひどく残念そうに小松くんは吐息を漏らした。ボクは指を下着から抜いて、また両足に手をかけただけだ。 ちょっと開かせると、下着の布も伸びて肉の絵がしっかりする。残念なのは、小松くんそのものの高ぶりがその絵のせいで隠されてしまうことだ。 ボクは深くため息をついた。 小松くんと一緒にいると、息をするのをよく忘れる。息をつめて凝視する癖が抜けないのだ。こんなに近くにいるのに、ココさんの気配が分からないのはさみしいと小松くんに困ったふうに笑いながら言われたことがある。 下がった眉が愛しくてそこに口づけると、こういうところは割と遠慮なくなったのに、そばにいるときだけ呼吸してるか分からないくらい固くならないでくださいとむっとするので、さらにたまらなくなったボクは押し倒して床に張り付けてしまったりする。 もちろん、無茶苦茶怒られて、その後しばらくは半径1m以上近づいてはいけないという罰を与えられたりするのだが。 小松くんが身動きするたびに、肉の形がもごもごと変わる。ボクは唇をなめた。 ボクは占いをするけど、美食屋でもある。おいしいものを見ると我慢が出来ないトリコほどではないが、やはり普通の人よりも反応してしまうのは当然ではないだろうか。 ごくりと喉を鳴らして湧き上がるつばを飲み込んだ。 「ひゃあ?」 小松くんが驚いて高い声をあげた。そしてボクの頭をぐいぐいと両手で押してくる。それに構わず、大きく息を吸い込めば、なまなましいオスのにおいが立ち上ってきた。ボクはうっとりと目を細めた。 「ココさん!やめっ」 小松くんの股間に顔をうずめた僕は、目だけで彼の顔を見上げた。真っ赤になって、ただでさえ大きな目が涙でうるんでこぼれ落ちそうだ。 ボクはもう一度、大きく息を吸い込んだ。 (小松くんのにおい) 職場から直行したという小松くんからは汗と食品と調理場で使っている油のにおいがした。 それとさわやかな整髪料とボディソープの残り香がボクの煩悩を駆り立ててやまない。 太ももを押さえている手を動かしながら、パンツの縫い目にそって鼻を強く押しつけると小松くんの腰がぶるりと震えて、なにかから逃げるようにあとじさった。それを引きもどしながらぐっと鼻で奥に突くと、こりこりしたなにかが当たってきた。 むっとするアンモニアのにおい。蒸れた汗のにおいと合わさって、ボクの鼻を刺激してくる。 「ひゃめ――もう、ボクひゃめれす……いやああああっ……ココひゃんのいじわるっ」 ひいひい泣きながら小松くんが叫び出したので、さすがの僕もちょっと顔を股間から引きはがしてようすをうかがった。もちろん足首は掴んで逃げられないようにしているけど。 「ココひゃ――ココさんのばかっ!そんなことやだあっ!ばか!」 「小松くんかわいい」 「ひゃ!」 罵倒する言葉もろくに発音できないほど感じているのだ、と思うとボクの胸は高鳴った。真っ赤に熟れたトマトのような顔色をして、涙目で睨みつけられてもボクを煽っているようにしか見えない。 再びボクは股間に顔を押し付けた。ぶるぶると揺れる小さな体。いつもより乱暴にベッドに押し付けて、ささやかな抵抗も奪ってしまう。 (ごめんね、わがままなボクを許してね) いくら嗅いでも満足するということがない。小松くんのにおい。汗や食品やもしかしたら――ね。 ボクは口をあけて、プリントの肉にかぶりついた。その下に、軽く立ち上がりかけている小松くんが潜んでいるのを知りながら、舌を出して布の上からぺろぺろと肉をなめた。 快楽に弱い小松くんの体は、ぶるぶると震えながら最初はボクを拒絶しているくせに、やがて諦めたように受け入れてしまう。 いったいどこまで許されるのか分からなくなったボクは、たまに行きすぎた意地悪をしてしまうけれど、そのたびに深い後悔に襲われるのだ。だからきっと、これが終わった後も、ボクは一人で海の底より反省して崖の上の家から一歩も出られなくなってしまうだろう。 「ココさ!ココさんっ!やあっ、いやあああっ、ちゃんとして、ね?お願い――ボク、そんなところやらああ」 舌でなめたあと、また鼻をこすりつけたりしていると、小松くんが手を差し入れてきてさっきとは逆に、ボクの頭を押しつけ始めた。 ぐいぐいと力がこもるたびに、小松くんの高ぶりがボクに迫ってくる。ボクは口で、舌で鼻で――肉プリントをつつきまわしてねじって吸い上げてあらゆる感覚で小松くんを堪能した。 「あああっ――」 跳ねるように腰が震えあがって、じわりとボクの唾液ではないものでパンツが濡れ始めた。肉プリントを口にくわえたままボクはいやらしくほほ笑んで小松くんを見上げた。 「小松くん、まさかいまのでイっちゃったの?」 「ちがっ――ちがいます。ココさんが、ココさんが」 「ぼくがなに?ボクはこの肉プリントを触ってただけだよ?ひとに原因を押しつけるなんて、君もずいぶん意地が悪いな」 「ひどいっ。全部、ぜんぶココさんが悪いのにっ!」 「……」 「にゃああああ」 口にくわえたままの肉パンツをじゅっと音を立てて吸い上げると、小松くんは悲鳴をあげてボクから離れようとした。 (許さないよ、小松くん。この状態でボクから逃げようなんて、考えることも許さない) いささか頭に血が上ったままでボクは小松くんの腰を抱え込んだ。 好きな相手が自分のしでかしたことで、あられもなく興奮する姿を見せつけられたのだ。得意にならないはずはないし、またボクも性的に興奮しないはずがないだろう。 「やめてやめて――ココさん、そんな汚いの口から出して。ね?お願いします、そんなことやめ」 「その割には、また小松くんの、いい感じになっているみたいだよ」 小松くんの言葉をさえぎりボクは夢中になってパンツをすすりあげる行為に没頭した。小松くんのペニスはさっき達したばかりだというのに、もう固さを取り戻そうとしていたからだ。 「ねえ、もっとちゃんとお願いしないと――ううん、いまはまだお願いしなくていいよ。ボクにもう少し小松くんを堪能させてもらわないと」 すすり泣きのような声が部屋に響いた。 ボクはうっとりとほほ笑みながら、ひくひくと震える股間に顔をうずめ、欲望の熱い吐息をその布ごしに強くふきかけた。 これ以上を読みたい方はずんだもちを3個テロッツオにください。ずんだくいたい。 |